【profile】
地域プロデューサー/クリエイティブディレクター
新村康二 Koji Shinmura
クリエイティブを活かし地域資源のブランディングやプロモーションを手掛けながら、メディア運営・日本酒事業・イベント開催などを通じて地域を盛り上げる活動をしている。
食べることと飲むことが人生の目的と化している中年クリエイター。
Instagram @peloli_insta


長坂養蜂場では、はちみつのお酒(ミード)を販売しているのをご存知でしょうか?

はちみつというとモーニングやランチで口にする方も多いと思いますが、ディナーや夜の晩酌としても楽しめるんです。

これまでお届けしていた“SATOYAMA MEAD38”に加え、長坂養蜂場のある三ヶ日町で採蜜された“三ヶ日みかん蜂蜜”を材料とした、新しいミードがついに誕生しました。その名も“スパークリング ミード”。

商品名の通り微発砲した、これからの季節にぴったりのスッキリした味わいのミード。実は、この商品が出来上がったのは、素敵な人との出会いがきっかけでした。


浜松から遠く離れた島根県出雲市。「古事記」や「日本書紀」には、須佐之男命(スサノオノミコト)が八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を酒でおびき寄せて退治する神話が記されている。出雲が日本酒発祥の地といわれる所以である。

この地に伝統的な酒造りの技法を伝承し、独自の文化を培ってきた【板倉酒造】がある。“天穏”という銘柄の日本酒が全国でも人気の酒蔵である。なんと、この伝統的な日本酒の酒蔵で既にミードをつくっているという話を聞きつけ、酒づくりの責任者である杜氏の小島達也さんに会いに行った。

出雲に降りたつと抜けるような青空が迎えてくれ、自然と生き物の共生する空気と出雲大社のある神秘的な感覚を肌で感じることができた。
この土地の水とお酒、そして酒米をミードに使用させていただくことのご挨拶として出雲大社にも赴いた。

荘厳な社殿とどこか張り詰めた緊張感を感じつつ、新しい出会いに期待感を膨らませて【板倉酒造】へ足を進めた。

酒造りを突き詰めたらミードづくりに辿り着いた

板倉酒造に到着し、作業場から姿を現した杜氏の小島さん。柔らかい語り口と共にモノづくりの職人、むしろ求道者のような深みを感じる物腰が印象的だった。
まずは率直に「日本酒の酒蔵さんがなぜミードをつくっているのか?」を聞いてみた。

小島さん:
「私は日本酒を造り、御神酒を造り、どぶろくを造り、過去へ過去へと遡って酒を造ってきました。その先にあったのは人類最古の酒であるミードだったんです。」

酒づくりの職人が突き詰めた先にミードがあると気づいた、というこの言葉だけではちみつ、そしてミードを作ってきた私たちには感動的だったが、さらに小島さんは続けた。

小島さん:
「日本酒を造ることで、米と酒が日本人のイトナミの象徴であると知ったことと同じように、植物など自然界のイトナミが凝縮されたはちみつを酒にすることで私の中で何か答えが見つかるはずだと思い、ミードの研究をはじめたんです。」

初対面でこれほどはちみつの本質をついた言葉を聞けたことがあっただろうか。そう、長坂養蜂場がいつも感じている植物や生き物、自然全体のイトナミの結晶がはちみつであるということ。それを遠く離れた出雲の地で同じ考えの方に出会うことができたことが嬉しかった。
長坂養蜂場の“街みつ”での試作もはじまっていたこの時、実際にミードをつくった手応えを伺ってみた。

小島さん:
「はちみつの優しさ、蜜源による複雑さ、酵母が作り出す酸、酵母のガスによる生命感、はちみつの余韻、アルコールの低さ、なんとも言えない理屈を超えた感動がありますね。その美味しさに魅了されてます。」

私たちも試作のミードを口にして驚いた。料理とのペアリングやアルコール度数、甘口や辛口などの考え方は、お酒を楽しむうえでは大事なことだが、“単純に口にして美味しい”という感動がこのミードにはあったのだ。同時にこれは多くの人に味わってほしいという気持ちが湧き起こってきた。

小島さんはさらに続けた。

嗜好的な酒より、共感を生む酒を造りたい

小島さん:
「私は近年、誰かにとって最高に美味しい嗜好的な酒より、多くの人を群れにする、共感の酒を重視して酒造りをするようになりました。ミードはまさしく種族を超え共感を生む酒だと思っています。共感は群れを生み、群れは未来をつくると考えてます。」


ミツバチが群れをなして集めたはちみつを、私たち人間も歓喜と共感を感じながら味わいそれが群れとなる。
味覚だけで楽しむのではなく、人々のイトナミの豊かさとは何かを考えさせてくれる、そんなミードが出来上がりました。

アルコール度数も低く、普段はお酒が苦手な方にも楽しんでいただけるミード。このお酒を通じて共感が広がっていくことを願っています。